
「脱兎のごとく」という言葉、聞いたことはありますよね。何かすごく速く動く様子を表していることは想像できるかもしれませんが、正確にどういう意味なのか、どんな場面で使えばいいのか、と聞かれると少し迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
実はこのことわざ、中国の古典「孫子の兵法」に由来する深い意味を持った故事成語なんですね。ビジネスシーンから日常会話まで、幅広く使われる表現なので、正しい意味や使い方を知っておくと、きっと役に立つはずですよ。
この記事では、「脱兎のごとく」の意味から由来、実際の例文、似たことわざ、英語での表現まで、わかりやすく丁寧に解説していきますね。読み終わる頃には、自信を持ってこのことわざを使えるようになっているかもしれませんね。
「脱兎のごとく」を理解するための基礎知識

読み方
「脱兎のごとく」は、「だっとのごとく」と読みます。
「脱兎」を「だっと」と読むことがポイントですね。「脱」という字は普段「ぬぐ」と読むことが多いかもしれませんが、ここでは音読みの「だつ」が促音便化して「だっ」となっているんですね。
「如く」は「ごとく」と読み、「〜のように」という意味を持っています。現代ではあまり使わない古風な表現ですが、ことわざや慣用句の中では今でもよく見かける言い回しですよね。
意味
「脱兎のごとく」は、逃げ出す兎のように非常に素早く、機敏に動く様子を表すことわざです。
ここでいう「脱兎」とは、罠や捕獲から逃れた兎のことなんですね。命の危険を感じた兎が全力で走り去る、その圧倒的なスピード感を表現しているんです。
もともとは戦術的な文脈で使われていた言葉でしたが、現代ではきわめて迅速な行動や判断を表す際に広く使われています。「車並みのスピード」という喩えもあるほど、その速さは印象的なんですよね。
興味深いのは、この言葉が持つニュアンスの変化です。元々は攻撃的に素早く動くという意味合いもあったのですが、現在では「脱兎のごとく逃げ出す」のように、逃走する際の素早さを表すイメージが強くなっているんですね。
語源と由来
「脱兎のごとく」の由来は、中国の春秋時代末期に書かれた兵法書『孫子』の「九地篇」にあります。この古典は、今から2500年以上も前に書かれたものなんですね。
原文では、「始如処女、敵人開戸、後如脱兎、敵不及拒」という一節があります。これを現代語に訳すと、「最初は処女のようにおとなしく振る舞って敵を油断させ、その後は逃げ出す兎のように素早く動けば、敵は防ぐことができない」という意味になるんですね。
つまり、これは戦術的なアドバイスだったんです。戦いの初めは静かに慎重に構え、相手に「大したことはない」と思わせる。そして絶好のタイミングで爆発的に素早く動いて、一気に勝負を決める。この対比が「始めは処女の如く、後は脱兎の如し」という表現に込められているんですね。
日本には室町時代頃に伝わったとされており、1477年の「史記抄」という文献に記録が残っているそうですよ。その後、単独で「脱兎のごとく」として使われるようになり、現代まで受け継がれてきたんですね。
面白いことに、時代とともに使われ方が変化してきました。孫子の原典では攻撃的な戦術の速さを表していたのに対し、現代では日常生活やビジネスシーンでも使われるようになり、必ずしも戦いの文脈だけではなくなったんです。これは言葉が文化の中で生き続けている証拠かもしれませんね。
「使い方」がわかる「例文」3選

1:「会議が終わるや否や、彼は脱兎のごとく会社を出て行った」
この例文は、何かが終わった直後に非常に素早く行動する様子を表していますね。
きっと彼には会議の後に急いで行かなければならない用事があったのでしょう。重要なデートだったのかもしれませんし、子どもの迎えの時間が迫っていたのかもしれませんね。
「脱兎のごとく」という表現を使うことで、ただ急いでいるだけではなく、驚くほどの速さで動いているというニュアンスが伝わります。周りの人が「あれ、もういないの?」と驚くような、そんな素早さが想像できますよね。
この表現は、ビジネスシーンでもよく使われます。ただし、少しユーモラスなニュアンスも含んでいるので、フォーマルすぎない場面で使うのがおすすめですよ。
2:「新商品の情報を得るや、彼女は脱兎のごとく市場調査に取りかかった」
こちらの例文は、ビジネスにおける機敏な判断と迅速な行動を表現していますね。
競争の激しいビジネスの世界では、情報を得てからの行動スピードが成功を左右することがありますよね。この例文の彼女は、新商品の情報という重要なきっかけを逃さず、即座に動き出したんです。
ここでの「脱兎のごとく」は、チャンスを逃さない俊敏さを称賛する文脈で使われています。「始めは処女の如く、後は脱兎の如し」という元々の孫子の教えに近い使い方だといえるかもしれませんね。
じっくり準備を整えてきた人が、タイミングを見計らって一気に動き出す。そんな戦略的な素早さを表現したい時に、この言葉はぴったりなんです。
3:「その動きは脱兎のごとく素早かった」
このシンプルな例文は、純粋に動作の速さを強調しています。
スポーツの試合や武道の動きなど、身体能力の高さを表現する際によく使われる言い回しですね。「速い」という一言で済ませるよりも、「脱兎のごとく」という表現を使うことで、その速さがいかに印象的だったかが伝わりますよね。
この使い方は比較的カジュアルで、日常会話でも使いやすいですよ。例えば、子どもが走る姿を見て「脱兎のごとく走っていったね」と言ったり、ペットの素早い動きを「脱兎のごとく駆け抜けた」と表現したりすることもできるんです。
ちなみに「脱兎の勢い」という言い方もあって、こちらも同じような意味で使われますね。文脈に応じて使い分けてみると、表現の幅が広がるかもしれませんよ。
似た意味の「ことわざ」は?「類語」「言い換え」表現
電光石火
「電光石火」(でんこうせっか)は、稲妻の光や火打ち石の火花のように、きわめて短い時間を表すことわざです。
「脱兎のごとく」と非常に近い意味を持っていますが、微妙なニュアンスの違いがあるんですね。「電光石火」は時間の短さや動作のスピードに焦点を当てているのに対し、「脱兎のごとく」は兎という具体的な動物のイメージがあるため、より視覚的で動的な印象を与えます。
ビジネスシーンでは「電光石火の早業で契約をまとめた」のように使われることが多いですね。どちらも褒め言葉として使えますが、「電光石火」の方がやや格式高い印象があるかもしれません。
疾風迅雷
「疾風迅雷」(しっぷうじんらい)は、激しい風と速い雷のように、非常に速く激しい様子を表す四字熟語です。
「脱兎のごとく」よりも、さらに勢いや激しさが強調されている表現なんですね。単に速いだけでなく、その動きに力強さや迫力が感じられる場合に使われることが多いんです。
戦国武将の攻撃や、企業の市場参入戦略など、攻撃的で力強い素早さを表現したい時に適していますよ。「脱兎のごとく」が逃げる兎のイメージを持つのに対し、「疾風迅雷」は攻める側のイメージが強いと言えるかもしれませんね。
矢のごとく
「矢のごとく」は、放たれた矢のように速く、まっすぐに進む様子を表す慣用句です。
「脱兎のごとく」と構造が似ていますよね。どちらも「〜のごとく」という古風な言い回しを使っています。
違いとしては、「矢のごとく」の方が直線的で目的がはっきりしている印象を与えます。矢は標的に向かってまっすぐ飛んでいきますからね。一方、「脱兎のごとく」は必ずしも方向性が定まっているわけではなく、とにかく素早く動くというニュアンスが強いんです。
「彼は矢のごとく目標に向かって進んだ」のように、目的意識の強さを表現したい時には「矢のごとく」の方が適しているかもしれませんね。
一目散
「一目散」(いちもくさん)は、わき目もふらずに一気に走り去る様子を表す言葉です。
これは「脱兎のごとく」の現代語版といってもいいかもしれませんね。より日常的で親しみやすい表現なんです。
「子どもたちは一目散に駆け出した」「一目散に逃げ出す」のように、カジュアルな会話でも使いやすいですよね。「脱兎のごとく」がやや文語的で教養を感じさせるのに対し、「一目散」は口語的で自然な響きがあります。
意味としてはほぼ同じですが、使う場面や相手によって使い分けるといいかもしれませんね。フォーマルな文章では「脱兎のごとく」、日常会話では「一目散」という具合にですよ。
「対義語」は?
猪突猛進
「猪突猛進」(ちょとつもうしん)は、周りのことを考えずに、目標に向かって突き進むことを表す四字熟語です。
一見すると「脱兎のごとく」と似ているように感じるかもしれませんね。どちらも速く動くイメージがありますから。でも実は、これは対義語と考えられることがあるんです。
「脱兎のごとく」が機敏で状況に応じた素早さを表すのに対し、「猪突猛進」は無謀で無計画な突進を意味するんですね。孫子の教えにある「始めは処女の如く」、つまり慎重に準備するという要素が「猪突猛進」には欠けているんです。
戦略的な素早さと無計画な突進。似ているようで、実は正反対の概念なんですよね。
遅々として進まず
「遅々として進まず」(ちちとしてすすまず)は、物事が非常にゆっくりで、なかなか進展しない様子を表す表現です。
これは「脱兎のごとく」の速さと直接対比される言葉ですね。「脱兎のごとく」が驚くほどの速さを表すのに対し、「遅々として進まず」はもどかしいほどの遅さを表現しています。
「工事は遅々として進まなかった」「交渉が遅々として進まず、苛立ちを感じた」のように、進捗の遅さに対する不満や焦りが込められることが多いですね。
ビジネスシーンでは、できれば「脱兎のごとく」取り組みたいけれど、現実には「遅々として進まず」という状況に直面することも多いかもしれませんね。
牛歩戦術
「牛歩戦術」(ぎゅうほせんじゅつ)は、牛の歩みのようにわざとゆっくり行動することで、時間稼ぎをする戦術のことです。
これは特に政治の世界でよく使われる言葉ですね。議会で投票の際に、反対派がわざとゆっくり歩いて時間を稼ぐ様子を表しています。
「脱兎のごとく」が素早く効率的に動くことを良しとするのに対し、「牛歩戦術」は意図的に遅く動くことを戦略として使う点で対照的なんですね。
興味深いのは、どちらも「孫子の兵法」的な戦略性を持っているということです。状況によって速く動くべき時と、あえてゆっくり動くべき時がある。これもまた戦術の一つなんですよね。
「英語」で言うと?
Like a bat out of hell(地獄から飛び出すコウモリのように)
この表現は、非常に速く、慌てて飛び出していく様子を表す英語のイディオムです。
直訳すると「地獄から飛び出すコウモリのように」となりますが、意味としては「脱兎のごとく」にかなり近いんですね。コウモリが地獄から必死に逃げ出す様子を想像してみてください。きっとものすごい速さで飛んでいくでしょうね。
"He drove like a bat out of hell"(彼は脱兎のごとく車を走らせた)のように使われます。口語的でカジュアルな表現なので、友人との会話やインフォーマルな場面で使われることが多いですよ。
面白いのは、日本語が「兎」を使うのに対して、英語は「コウモリ」を使っているところですね。文化によって速い動物のイメージも違うんだなと感じられますよね。
Quick as a flash(閃光のように速く)
「Quick as a flash」は、閃光のように素早い様子を表す英語表現です。
日本語の「電光石火」に非常に近い感覚の表現ですね。「flash」は稲妻や閃光を意味しますから、瞬間的な速さを視覚的に表現しているんです。
"She answered quick as a flash"(彼女は脱兎のごとく(素早く)答えた)のように、反応の速さや判断の迅速さを表現する際によく使われます。
「Like a bat out of hell」よりもやや上品で、ビジネスシーンでも使いやすい表現かもしれませんね。会話でも文章でも自然に使える、バランスの取れた表現ですよ。
In a flash / In the blink of an eye(瞬く間に)
「In a flash」や「In the blink of an eye」は、瞬く間に、あっという間にという意味の英語表現です。
これらは「脱兎のごとく」の「速さ」のニュアンスを伝えるのに適した表現ですね。特に「In the blink of an eye」は「瞬きする間に」という意味で、時間の短さを強調しています。
"He disappeared in a flash"(彼は脱兎のごとく姿を消した)や "Everything changed in the blink of an eye"(すべてが一瞬で変わった)のように使われます。
これらの表現は、動作の速さだけでなく、時間の経過の速さも表現できるので、幅広い場面で応用できますよ。「脱兎のごとく」を英語で表現したい時の選択肢として、ぜひ覚えておいてくださいね。
まとめ
「脱兎のごとく」について、意味から由来、使い方まで詳しく見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
このことわざは、単に「速い」というだけでなく、状況を見極めてから爆発的に動く戦略的な素早さを表現しているんでしたね。中国の古典『孫子』に由来する深い意味を持ちながら、現代の日常会話やビジネスシーンでも幅広く使われている、とても便利な表現なんです。
ポイントをおさらいすると、こんな感じですよ。
- 「脱兎のごとく」は「だっとのごとく」と読み、逃げる兎のような素早い動きを表す
- 孫子の「始めは処女の如く、後は脱兎の如し」が由来で、戦略的な素早さを意味する
- 現代では逃走の速さだけでなく、機敏な判断や迅速な行動全般に使える
- 類語には「電光石火」「疾風迅雷」「一目散」などがある
- 英語では「like a bat out of hell」や「quick as a flash」で表現できる
日常生活でもビジネスでも、チャンスを逃さず素早く行動することの大切さは変わりませんよね。準備を整えてタイミングを待ち、そして一気に動く。それこそが「脱兎のごとく」の本質なのかもしれませんね。
ぜひこの記事を参考に、日常会話や文章の中で「脱兎のごとく」を使ってみてください。きっと、あなたの表現力がより豊かになるはずですよ。