
「児孫のために美田を買わず」ということわざ、どこかで聞いたことがあるという方も多いかもしれませんね。なんとなく「子どもに財産を残さない」という意味だろうとは想像できるものの、正確にはどういう意味なのか、どんな場面で使うのか、詳しく説明するとなるとちょっと迷ってしまいますよね。
実はこのことわざ、西郷隆盛さんの有名な言葉なんです。そして近年、本来の意味が誤解されているという指摘もあって、注目を集めているんですね。
この記事では、「児孫のために美田を買わず」の意味や由来、実際の使い方がわかる例文、さらには類語や対義語、英語での表現まで、詳しくご紹介していきます。読み終わる頃には、このことわざを自信を持って使えるようになっているはずですよ。
「児孫のために美田を買わず」を理解するための基礎知識

読み方
まずは読み方から確認しておきましょう。「じそんのためにびでんをかわず」と読みます。
「児孫」は「じそん」、「美田」は「びでん」ですね。どちらも少し難しい漢字ですから、初めて見た方は読み方に迷われたかもしれません。「美田」を「びた」と読み間違えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、正しくは「びでん」なんですね。
意味
「児孫のために美田を買わず」の意味は、子孫のために財産を残すべきではないという教訓を示すことわざです。
もう少し詳しく見ていきましょう。「児孫」というのは子どもや孫、つまり子孫のことですよね。そして「美田」は、立派な田畑、つまり財産や資産を意味しているんです。昔は田畑が財産の象徴でしたから、このような表現になっているんですね。
なぜ子孫のために財産を残すべきではないのでしょうか。それは、子孫によかれと思って財産を残すと、かえって子孫の心が安逸に流れてしまい、自立心を失わせることになるからなんです。つまり、苦労をさせてこそ立派な人物が育つという考え方なんですね。
財産を残すことで、子孫間の相続争いを引き起こす可能性もありますよね。そうした問題を避けるという意味合いも含まれているとされています。
語源と由来
このことわざの出典は、西郷隆盛さんが書いた『偶成』という漢詩なんです。明治維新の立役者として知られる西郷さんの言葉だったんですね。
『偶成』の中に「一家の遺事人知るや否や、児孫の為に美田を買わず」という一節が出てきます。「偶成」というのは「ふと思いついて作った詩」という意味で、西郷さんが自分の心境を率直に表現した作品なんですね。
一般的には、この言葉は子孫教育に関する教訓として理解されてきました。子孫のために財産を残すと、子孫から必死に働いて生きていくという気概を奪ってしまい、かえってよくない結果になるという意味で受け止められているんです。
ところが近年、この解釈について興味深い議論が出てきているんですね。研究者の真山知幸さんは、この言葉は子育て論ではなく、自分自身の志を遂行するための教訓であると主張しているんです。つまり、子孫に財産を残そうとすることは私利私欲に走ることであり、志を遂げることはできないという意味だというんですね。
西郷さんの詩全体を読むと、志を遂げようとするならば全てを犠牲にする覚悟を持つべきという、自分自身への強い戒めとしての側面が見えてくるんです。「志とは辛く苦しい経験を経ることで確固となり、男たるものは玉砕することがあろうとも、瓦のような安全な人生は駄目である」という厳しい姿勢が詩全体に流れているんですね。
どちらの解釈が正しいのかは議論が分かれるところですが、西郷さんという人物の生き方を考えると、どちらの意味も含まれていたのかもしれませんね。維新という大きな志のために私財をなげうち、最終的には命まで捧げた西郷さんの生き様そのものが、この言葉に込められているような気がしますよね。
「使い方」がわかる「例文」3選

それでは、実際にどのような場面でこのことわざを使うのか、例文を通して見ていきましょう。
1:「祖父は『児孫のために美田を買わず』を信条としており、財産のほとんどを社会貢献活動に使ってしまったそうだ」
この例文は、実際に財産を残さなかった人の行動を説明する場面ですね。
お祖父さんが、子孫に財産を残すよりも社会のために使うことを選んだという状況を表しています。これは西郷さんの言葉の精神を実践した例と言えますよね。子孫に楽をさせるのではなく、自分の力で生きていく力を身につけさせようという考え方が表れているんです。
最初は戸惑うかもしれませんが、長い目で見れば子孫の自立心を育てることになるという信念なんですね。
2:「社長は引退時に『児孫のために美田を買わず』と言って、会社の株を全て整理し、後継者に一から事業を築かせることにした」
こちらはビジネスの場面での使用例です。
実際に、先代の社長さんが会社の資産を整理したことで、後を継いだ息子さんが奮起したという事例があるそうなんです。親の築いた基盤に甘えることなく、自分の力で事業を成長させる覚悟を持たせるという意図があるんですね。
厳しいようにも思えますが、真の実力と覚悟を身につけさせるための愛情とも言えるかもしれません。簡単に手に入ったものは簡単に失ってしまうこともありますから、自分で苦労して築いたものこそ大切にできるという教えなんですね。
3:「彼女は『児孫のために美田を買わず』という考え方に共感し、子どもたちには教育だけはしっかりと与えるが、財産は残さないと決めている」
この例文は、現代的な子育ての方針として使われている場面ですね。
財産そのものは残さないけれど、教育という「生きる力」は与えるという考え方です。魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるという発想に近いかもしれませんね。
これは現代社会でも実践しやすい解釈と言えるでしょう。子どもたちが自分で人生を切り開いていける力を身につけさせることが、本当の愛情だという考え方なんです。
似た意味の「ことわざ」は?「類語」「言い換え」表現
「児孫のために美田を買わず」と似た意味を持つことわざや表現を見ていきましょう。微妙なニュアンスの違いも理解できると、より深く意味が分かってきますよ。
可愛い子には旅をさせよ
「可愛い子には旅をさせよ」は、愛する我が子だからこそ、甘やかさずに世の中の辛さや苦しさを経験させるべきだという教えですね。
昔、旅は危険で大変なものでした。そんな旅をあえてさせることで、子どもを成長させようという親心を表しているんです。
「児孫のために美田を買わず」との共通点は、苦労をさせることで人を育てるという考え方ですよね。ただ、「可愛い子には旅をさせよ」は経験を積ませることに重点があるのに対し、「児孫のために美田を買わず」は財産を残さないという具体的な行動を示している点が違いますね。
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす
これも厳しい子育てを表すことわざですね。「千尋」は非常に深いという意味で、獅子が自分の子どもをあえて深い谷に突き落とし、這い上がってきた子だけを育てるという話に由来しているんです。
もちろん実際の獅子がそんなことをするわけではないのですが、厳しく育てることで強い子に育てるという教えなんですね。
「児孫のために美田を買わず」と比べると、こちらはより試練を与えるという積極的なニュアンスがありますね。財産を残さないという消極的な方法ではなく、あえて困難に立ち向かわせるという点が特徴的です。
親の光は七光り
これは少し角度が違うのですが、関連する表現として知っておくと良いでしょう。親の地位や名声のおかげで、子どもが実力以上に評価されることを指すことわざです。
本来は良い意味でも使われましたが、現代では親の威光に頼っているという、やや否定的なニュアンスで使われることが多いですよね。
「児孫のために美田を買わず」が避けようとしているのは、まさにこの「親の光」に頼る状態なんです。自分の力で光を放てる人間になってほしいという願いが込められているんですね。
艱難汝を玉にす
「艱難汝を玉にす」(かんなんなんじをたまにす)は、困難や苦労を経験することで、人は立派に成長するという意味のことわざです。
原石が磨かれて宝石になるように、人も苦労を重ねることで価値ある人間になれるという教えなんですね。これは中国の古典に由来する言葉なんです。
「児孫のために美田を買わず」と共通するのは、苦労こそが人を成長させるという哲学ですよね。財産を残さないことで、結果的に子孫に苦労を経験させ、玉のような人物に育てようという意図があるんです。
「対義語」は?
次に、「児孫のために美田を買わず」と反対の意味を持つことわざや表現を見ていきましょう。対義語を知ることで、元のことわざの意味がより明確になりますよね。
親の因果が子に報う
「親の因果が子に報う」は、親の行いの結果が子どもに影響するという意味ですね。親がした良いことも悪いことも、子どもに返ってくるという考え方なんです。
これは「親が残したもの」という点では共通していますが、親の行いの結果を子が引き受けるという、やや運命論的なニュアンスがありますよね。
「児孫のために美田を買わず」が子孫の自立を重視するのに対し、こちらは親子の因縁の連続性を強調している点が対照的ですね。
親の七光
先ほど類語のところでも触れましたが、「親の七光」は親の地位や名声を子どもが利用できる状況を指します。
これは「児孫のために美田を買わず」とは正反対の状況ですよね。親の築いた基盤や評判を子どもが享受している状態なんです。
現代社会では、親のコネクションや資産を活用することも一つの知恵だという見方もありますが、「児孫のために美田を買わず」の精神とは相反する考え方と言えるでしょう。
子孫に美田を残す
これはそのままの意味で、「児孫のために美田を買わず」の完全な対義表現ですね。
子孫のために立派な財産を残し、経済的に苦労させないようにするという考え方です。親として子どもを守り、豊かな生活を保障してあげたいという愛情の表れとも言えますよね。
どちらが正しいということではなく、子どもへの愛情の示し方の違いなんです。財産を残すことで子どもを守るのか、あえて残さないことで強く育てるのか、それぞれの家庭の価値観による選択と言えるでしょう。
「英語」で言うと?
それでは、「児孫のために美田を買わず」を英語ではどのように表現するのか見ていきましょう。英語圏にも似た考え方を表す表現があるんですよ。
Give a man a fish and you feed him for a day; teach a man to fish and you feed him for a lifetime(魚を与えれば一日食べられるが、魚の釣り方を教えれば一生食べられる)
これは英語圏で非常によく使われる表現ですね。中国の古いことわざが英語に訳されたものと言われています。
魚そのものを与えるのではなく、魚を釣る方法を教えることの大切さを説いているんです。つまり、物を与えるのではなく、自立する力を与えるべきだという教えなんですね。
「児孫のために美田を買わず」との共通点は、財産そのものではなく、自分で生きていく力を身につけさせることの重要性を説いている点ですよね。非常に近い精神を持った表現と言えるでしょう。
Don't leave your children rich, leave them skilled(子どもに富を残すな、技能を残せ)
こちらはより直接的に「児孫のために美田を買わず」の精神を表している表現ですね。
金銭的な豊かさではなく、技術や能力という「生きる力」を残すべきだという考え方です。現代のビジネスシーンでもよく引用される言葉なんですよ。
投資家のウォーレン・バフェットさんも似たような発言をされていますよね。巨額の財産を持ちながら、子どもたちには必要最小限しか残さないという方針を取っている富裕層の方々は、この考え方を実践していると言えるでしょう。
The best inheritance a parent can give their children is a few minutes of their time each day(親が子に与えられる最高の遺産は、毎日のわずかな時間である)
この表現は、財産ではなく時間や関わりこそが大切だという視点ですね。
物質的な遺産よりも、親が子どもと過ごす時間、つまり教育や人格形成に関わる時間こそが本当の財産だという考え方なんです。
「児孫のために美田を買わず」とは少し角度が違いますが、お金や物ではない、もっと大切なものを残すべきだという点では共通していますよね。現代的な解釈としても参考になる表現だと思います。
まとめ
「児孫のために美田を買わず」について、意味や由来、使い方などを詳しく見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
このことわざは、西郷隆盛さんの漢詩『偶成』に由来する言葉で、子孫のために財産を残すべきではないという教訓を示しているんでしたね。子孫によかれと思って財産を残すと、かえって自立心を失わせることになるという考え方なんです。
一般的には子育ての教訓として理解されていますが、実は西郷さん自身の志を遂げるための決意を示した言葉だという解釈もあるんでしたよね。どちらの意味も含まれていると考えると、この言葉の深さがより分かってきますね。
現代社会でこのことわざをどう活かすかは、それぞれの価値観によって違ってくるでしょう。財産を全く残さないというのは現実的に難しいかもしれませんが、子どもの自立心を育てるという精神は、多くの方にとって参考になるのではないでしょうか。
物質的な豊かさだけでなく、自分の力で人生を切り開いていける力を身につけさせることの大切さ、これは時代が変わっても変わらない真理かもしれませんね。
親から子へ、そして孫へと受け継がれていくもの。それは財産だけではなく、生き方や価値観、そして何より自立して生きていく力なのかもしれません。「児孫のために美田を買わず」という言葉を通して、本当に大切なものは何かを考えてみるのも良いかもしれませんね。
ぜひこのことわざを、日常会話や子育ての場面で使ってみてください。使いながら、あなた自身の解釈も深めていけるといいですよね。